2011年11月14日

ファヴェーラ・ダ・ロシーニャ奪還大作戦

ブラジルのFavelaとは説明しにくい単語である。
一般的にはスラムとされるが、全住民が貧しいわけではない。
新郊住宅街かもしれないが、無計画に増殖したものだ。
学校や商店街もあっていつも大勢の人で賑わっている。
坂が多くて人口密度が高い。
行ったことはないけれどテレビでよく見る風景、リオに住んでいる人にとっては、立ち入ったことはなくてもどこからでも遠くから見ることのできる場所かもしれない。

リオデジャネイロ市は海側には港湾と海岸、後ろには奇岩と言える岩山がそびえ立ち起伏に富んだ地形をもち、そのため高名な観光地になっているのだが、ファベーラは丘(morro)と呼ばれるように、宅地にあまり適さない傾斜地にへばりついている。
そんな場所でも街の中心部に近いから住みたい人には事欠かない。
最初に住み始めた人は不法占拠から始まったのかもしれないが、現在は地権登録など正式なものかはわからないが土地家屋は売買されるようだ。
整備の進んだ場所では電気水道などしっかりしているが、盗電(gato 意味は「猫」だが、なぜこう言うのかわからない)し放題のところもある。
そんなところは当然治安に問題があり、電力会社も警察も迂闊に入れない。

住んでいる人には申し訳ないが、都市の癌と言っても間違いでないだろう。
通常都市秩序を保つはずの市役所や警察の管理から逸脱して、犯罪組織が支配する(もちろんそうでないところも多い)無秩序に増殖する市街地である。

リオデジャネイロ州が行なっている矯正方法も癌の場合と酷似している。
健康な組織へのがん細胞の拡散を防ぎ、がん細胞へのエネルギー供給を断つために血管(道路)を閉鎖する。
抗がん剤や放射線ならぬ、精鋭部隊を含む警察力3千人と海軍狙撃兵が参加して、装甲車18台とヘリコプターを使いがん内部を叩く。

集中治療は2011年11月13日日曜日早朝4時に開始される。
今回の奪還作戦の対象ロシーニャ(Favela da Rocinha)、ヴィジガル(Favela do Vidigal)とシャカラ・ド・セウ(Chácara do Céu)の住民8万人及び隣接地区住民は、発砲騒ぎ無しに正規権力(警察)による奪還が平穏に成功することを期待している。

奪還作戦の一日前から警察は地域に出入りする通りの警戒を厳重にしている。
警察のヘリコプターは地を舐めるように飛び交う。
地域へのアクセス道路でオートバイ・乗用車・路線パスの人員と積載物の厳しいチェックが行われる。
脱出しようとする犯罪者や武器・薬物を捕獲するためだ。
丘の上方の動きは逐一監視される。

住民は、作戦の日は一日中家にこもるのが安全だと考えている。
作戦の日に備えて食糧など買い置きする住民で商店が賑わっている。
作戦の対象区外に親戚や知人が住んでいる住民は、そこを頼って一日中地域外で過ごす人もいる。

ファベーラ・ロシーニャ(Favela da Rocinha 22°59'25.79"S - 43°14'42.63"W)とファベーラ・ヴィジガル(Favela do Vidigal 22°59'43.20"S - 43°14'23.94"W)へのアクセス道路は8箇所で歩行者・車両共に閉鎖される。
リオデジャネイロ市全体でも、犯罪者が脱出するのを防ぐため他州から応援に来た連邦道路警察が警戒にあたる。
州政府の保健局も警戒態勢に入り、作戦でけが人が出たときに備える。

以下は11月14日のニュースから。
13日早朝4時にところどころ霧のかかる丘で開始された占拠作戦は発砲や大きな混乱なくかなり平穏に終了したようだ。
丘の上には象徴的にブラジル国旗とリオデジャネイロ州旗が掲げられた。
組織の幹部が何人か捕まった。
現在隠された武器や薬物を捜索する掃討作戦が続いている。
バズーカ・対戦車弾から機関銃、手榴弾、大量の薬物が押収されている。
ゴミ収集など公共サービスも平常どおり動いている。

これから警察は和平警察署(UPP - Unidade de Polícia Pacificadora)をロシーニャへ設ける。
ロシーニャUPPは予定40ヶ所の中の19番目のUPPとなる。

しかし作戦成功でも安心していられない。
薬物取引組織がなくなっても、中毒者は残る。
この連中はこの後誰から薬物を入手するのだろうか。
大都市から閉めだされた組織末端は、地方都市へ拡散して勢力を盛り返すのではないだろうか。

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